本とは

はるか昔にも、わたしたちには記憶にとどめたいこと、誰かに伝えたいことがありました。ジョン・アガードは『わたしの名前は「本」』で〝息〟を本の始まりとして書いています。〝息〟とはつまり、わたしたちの息遣いのこと。わたしたちが生きるなかで見つけたことを、何かに記録したり誰かに伝えたいと思ったこと、そのもののことだと思います。本による表現〝ブックアート〟にとってもこれが本の始まり。一番大切なことです。

この〝息〟を載せて運ぶものの変遷が本の歴史でした。太古のバクテリアから遺伝子を複製し続けてきた私たちは、ある意味で最古の〝本〟といえるでしょう。本棚にあるのだけが本ではなく、歴史の上では、綴じ方も材料も印刷方法もさまざま。本に対するアイデアもまちまち。これまでに存在した本が全て〝本による表現〟のバリエーションです。そして、まだ試されていないこともきっとあるはず。〝本による表現〟はこのように自由です。

世界中が電子的なネットワークで結ばれる今、物質的な本を〝あえて〟作ることが特別な意味を持ち始めています。「触れる」「持ち運べる」〝本〟に〝表現すること〟とは、身体的感覚を持ちながら他者と結びつく可能性を秘めています。それは大規模に拡大された農場ではなく、小さな菜園で作った野菜を身近な人々と分け合う楽しみに、少し似ているかもしれません。

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(参考図書:Before Book, there was Breath: John Agard, Book わたしの名前は「本」:ジョン・アガード作/ニール・パッカー画/金原瑞人 訳/フィルムアート社)

phase2の非公開ウェブサイトより/Illustration: Kakomikan

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